
飛行機の窓を流れる雲の切れ間から見えたのは、どこまでも広がる平野と白銀の山々だった。
本州からわずか数時間。だが、ここはまるで別の国。
大地のスケールも、空の広さも、空気の澄み切り方も――北海道は旅人を一瞬で飲み込み、心を解き放つ。
春 – 雪解けの街、歴史と海の香り
札幌 – 都会に芽吹く春
冬の名残を残した札幌の街を歩けば、路面にまだ氷がきらりと残っている。
しかし大通公園には小さな緑が芽吹き、行き交う人々の表情もどこか柔らかい。
二条市場で朝の海鮮丼を頬張れば、ぷりぷりのウニやホタテが口の中で弾け、長い冬を越えた体に春を知らせてくれる。
小樽 – 運河の街を彩る灯
JRで小樽へ。石造りの倉庫が並ぶ運河を歩くと、カモメの鳴き声と潮風が漂う。
夕暮れになるとガス灯がともり、水面にオレンジ色の光が揺らめく。小樽硝子の店に立ち寄り、手吹きガラスのコップを手にしたとき、旅の思い出が形になった気がした。
夏 – 大地が輝く季節
富良野 – 紫の香りに包まれて
7月、富良野のラベンダー畑は一面が紫色の海。甘い香りが風にのって広がり、どこまでも続く丘陵地帯が夢のように見える。
ラベンダーソフトを口にすれば、涼やかな甘さが広がり、夏の陽射しを優しく和らげてくれる。
美瑛 – 色彩の丘をめぐる
車で美瑛の「パッチワークの路」へ。麦畑、ジャガイモ畑、トウモロコシ畑が幾何学模様を描き、空の青と雲の白がキャンバスに重なる。
「青い池」では、青い水面に立ち枯れた木々が幻想的に浮かび上がり、まるで異世界の入り口のようだった。
釧路 – 霧と湿原の静けさ
東へ向かえば釧路湿原。展望台から見下ろすと、蛇行する川と果てしない草原が広がっていた。
エゾシカやタンチョウが姿を現し、人間が小さな存在であることを教えてくれる。
秋 – 紅葉と実りの大地
知床 – 世界自然遺産の秋
オホーツク海へ突き出した知床半島。断崖絶壁に広がる原始林が、赤や黄に色づいていた。
遊覧船から見上げると、滝が海へと落ち、野生のヒグマが川で鮭を狩る姿も。生と死の営みが繰り返される大自然に、ただ圧倒される。
阿寒湖 – マリモの棲む湖
阿寒湖畔の紅葉は水面に映り込み、鏡のような美しさ。
アイヌコタンの集落では、民族舞踊や木彫りの工芸品に触れ、北海道の深い文化を肌で感じた。
札幌 – 食欲の秋
この季節の札幌は「オータムフェスト」でにぎわう。北海道各地の旬の味覚が一堂に集まり、ジンギスカン、焼きとうもろこし、ホタテバター焼きにビール――秋の恵みを堪能した。
冬 – 雪と氷の幻想世界
札幌 – 雪まつりの夜
2月、大通公園は巨大な雪像や氷像で埋め尽くされる。
ライトアップされた氷の城が夜空に輝き、人々の笑顔と歓声が溶け合っていた。雪国の寒さすら、この夜は心地よく感じる。
小樽 – 雪あかりの路
小樽では雪灯籠とキャンドルが街を照らす「雪あかりの路」。運河沿いの静かな光景は、まるで物語のワンシーンのようで、心がふっと温まった。
網走 – 流氷の轟き
オホーツク海を進む砕氷船。流氷を割る鈍い音と、氷原を埋め尽くす白の世界。
北の果てでしか見られない風景に、寒さを忘れて立ち尽くした。
旅の終わりに
北海道は、一度の旅では語り尽くせない。
春は海鮮と運河の灯、夏は花と青空、秋は紅葉と実り、冬は雪と氷――四季ごとにまったく異なる物語が紡がれる。それは観光地をめぐる旅ではなく、大地と自然、人と文化が織りなす体験そのもの。
北海道を旅することは、自分自身の中に新しい物語を刻むことだった。

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